どうすればよかったのか?今後どうすればよいのか?
Cさんのケースは、決して特殊な事例ではありません。遺留分をめぐって「遺言」と「遺留分減殺請求」の応酬になってしまうことは、どのご家庭にも可能性があります。
Cさんの事例から見ると、もともとの根っこは遺言を書く人と相続人の関係が極めて悪くなったことが原因です。当たり前の話ですが家族がいがみ合えば結局は家族全員が傷つきます。自分ひとりの主張や正当性を確保するために遺言を書く人がいますが、結果としては誰も喜ぶ人はいないのです。お金や財産のことだけで片がつかないのが家族であり、お金がなくても片がつくのも家族だけです。
もし、Cさんのお母さんが遺言を書くにしても、「付言事項」でCさんのお兄さんに対して自分の想いやなぜこのような遺言を書くにいたったのかをきちんと遺しておいてくれたら、事態はここまでこじれなかったのではないかと感じます。物心ともにお兄さんを全否定するかのような今回の遺言では、お兄さんを説得する材料もありませんでした。
今後は、お兄さんのアプローチを待って話合いのタイミングを図ることになります。残念ながら長期間にわたることは覚悟しなければなりません。その間、Cさんもお兄さんもお互いに不信とモヤモヤを抱えながら生きていくことになります。複雑な環境とはいえ、たった二人きりの兄弟がこうした不健全な関係になってしまうことまで、お母さんは予想していたでしょうか?
お母さんは、生前Cさんにさんざんお兄さんのグチを話してきました。遺言の動機が「Cさんに全部あげたい」というものではなく、「息子には絶対あげたくない」という意地が大半を占めていただろうと推察できます。自分が死んだ後、この遺言が原因で兄弟がどんな影響を受けるかまでを真剣に考えていたのか疑問が残ります。
もちろん、遺言はどんな理由や内容であれ、書く人の自由です。「遺言ぐらい自由にさせてよ!」という気持ちもわかります。しかし、もし遺された人たちの幸せを願うのであれば、やっぱり自分だけの身勝手は自重しなければなりません。残された人たちがトラブルになれば、結局は遺言をした人の生きざまを問われてしまうのです。
Cさん(35才・女性)は、都内に住む主婦です。家族は、夫と生まれたばかりの長女。最近、一戸建てを買って3人で楽しく生活しています。
昨年、Cさんのお母さんが亡くなり、相続が発生しました。Cさんの実家は東海地方の資産家につながるお家でしたので、不動産や株式などを相続するに際し、相続税の申告もしなければなりませんでした。
私は、Cさんのご了解をいただき、相続に強い税理士をご紹介させていただきました。何回かのやりとりを経て無事に申告は終わりました。
しかし、Cさんの場合は申告や納税は終わっても、もうひとつ気掛かりがありました。Cさんには父親の違うお兄さんがいました。お兄さんは、もともとあまり家に寄り付かず、一族の資産を守るために親族の話合いで決めたことも守ってくれませんでした。そのため、お母さんとはすっかり仲が悪くなり、そのまま理解し合えないままお母さんは他界されました。
お母さんが亡くなった後、Cさんとお兄さんは法定相続人として一緒に銀行へ行きました。お母さんはもともと「宵越しの金は持たねえ」タイプでしたので預金はほとんどありませんでしたが、貸金庫がありました。
相続が発生した場合、速やかに貸金庫を確認することはとても大切なことです。遺言書など重要な物が保管されているケースが多いためです。貸金庫の確認を後回しにしたまま相続人だけで遺産分割の話合いをしてしまい、後になって遺言書や多額の現金が出てきてトラブルになるケースは少なくありません。
遺言書がない時点で貸金庫を開けるためには相続人全員の同意が必要なので、相続人同士の仲がすでに悪いとどうしても貸金庫の確認が後回しになりがちです。その場合も、遺産分割の話合いとは切り離してお互いのために確認だけは協力して行なって下さい。
さて、Cさんの場合も、お母さんの貸金庫を開けたところやっぱり遺言書が出てきました。その内容から、お母さんがいかにCさんのお兄さんに対して怒っていたかがわかりました。
Bさんの弟さんの法的権利は明らかです。登記されたお母さんの不動産を相続する権利は弟さんにもあります。しかし、一方で民法では、遺言書のない相続については相続人同士の話し合いによって遺産を分割することを大前提としています。つまり、相続人はその権利を主張することはできますが、必ず主張しなければならないわけではありません。
相続に関する本などには、「法定相続割合」とか「遺留分」とかややこしいことが書いてありますが、そうした情報にのめり込みすぎると、何のために権利を主張しているのかを見失う人も多くいらっしゃいます。
もはや、兄弟とは縁を切る覚悟があれば、淡々と法律に基づいてご自分の権利を主張し、もらうものだけもらって二度と会わないという選択もあるでしょう。しかし、法律には兄弟がどうしたら仲良くできるかという問題の答えは書いてありません。
結局お二人のお兄さんに間に入っていただくことになりました。もちろん、お兄さんも相続人ですので権利を主張することもできますが、お母さんが「兄弟が仲良くしてほしい」という想いを持っていたことを一番大切にしておられました。
お兄さんは、Bさんの弟さんに「俺も何も受け取らないから、おまえもわがままを言うな。おまえが苦しんでいることは俺もBもよくわかっている。」と諭しました。
Bさんの弟さんもようやく理解して下さり、不動産は無事にBさんが相続することになりました。また、相続とは別の話として、商売で苦労している弟さんへの支援も話し合われました。
この合意を受けて、私は遺産分割協議書を作成し、ご兄弟全員に署名と実印をいただきました。
「相続」というと、どうしても遺産の分割ばかりに気持ちが奪われます。しかし、家族の一員が亡くなりこの先どうすればみんなが幸せになれるかということこそ考えなければなりません。お金や財産はそのための手段の一つに過ぎないと改めて感じました。
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