2011年7月アーカイブ

遺言による信託 3

信託銀行など、法律上の信託を行うことができる法人を受託者とすることで、例えば「月々○○円を受益者に渡す」というような方法も安心して任せることができます。ただし、信託銀行があなたの大切な人の監護教育や療養看護をしてくれるわけではないので、先にお話した後見制度をあわせて利用すれば、生活全般と財産管理の両面で安心です。

 

なお、近年信託法の改正によって、ペットの世話を目的とする信託も可能となりました。しかし、実務上このような形の信託を引き受ける信託銀行は少ないため、負担付遺贈の方法が一般的です。

遺言による信託 2

もし、あなたの大切な人があなたの遺産を適切に管理したり利用して、安心して生活ができる力がないとき、何らかの方法を検討しなければなりません。

 

その方法のひとつに未成年後見制度や成年後見制度を利用することが考えられます。

未成年後見人は、未成年者に親権者がいないとき、未成年者の監護教育と財産管理を行う人です。また、成年後見人は、認知症や障がいなどにより判断能力が低下している方の身上監護や財産管理を行う人です。これらの後見制度によって財産を管理することもひとつの方法です。

しかし、未成年後見人は未成年者が成人すればその職務が終了してしまいますし、成年後見人も法律上判断能力がないと認められなければ選任されません。法律上、後見人を選任することができないと判断されても、あなたの心配が解消されないこともあるでしょう。さらに、あなたの大切な人の後見人になれるほど信頼できる後見人を見つけることも簡単なことではありません。

(成年後見制度の詳細については http://www.machida-kouken.jp/

 

そこで、遺言によって信託を設定するという方法も検討することになります。

遺言による信託 1

「信託」とは、財産の所有者が、その財産を信頼できる人に委託して、一定の目的に従いある人のために管理・処分してもらうことをいいます。この場合、財産の所有者を「委託者」、委託された人を「受託者」、利益を受ける人を「受益者」といいます。

通常は、委託者と受託者が契約を結ぶことで信託が設定されますが、遺言によって信託を設定することもできます。なお、信託銀行などが行う「遺言信託」のサービスは、遺言書作成のアドバイスや保管、執行などの業務を意味しており、法律上の信託とは関係がありません。

あなたはなぜ遺言書を遺そうと考えたのでしょうか?

・子どもたちや親族間のもめごとを防ぐため?

・自分の想いを実現してもらうため?

・老後を安心して暮らすため?

 

高齢になると、遺言書を必ず書かなくてはならないような義務感からご相談される方もいらっしゃいます。確かに、遺言書を書くと少なくとも自分の死後のことの安心が得られますので、検討されることはとてもよいことです。しかし、遺言書について考えすぎてしまい、今そこにいらっしゃるご本人の負担となり、体調まで崩されては本末転倒です。

本来、家族が仲よく、わざわざ遺言書などなくてもご本人の気持ちがみんなに十分理解されていれば、それに勝るものはありません。ただ、現実にはこのようにうまく伝わることが難しいので、やむを得ず生前の意思疎通の不足を補う道具として遺言書があるのです

 

道具である以上、使いようでその効果は大きく変わります。大切なのはその道具である遺言書を書く目的です。そのことがあいまいなままだと、出来上がっても満足や安心は得られません。いったい自分はどんな老後を過ごしたいのか、自分が死んだら周りの人にはどのように行動してほしいのかという希望をはっきりとさせておく必要があります。そして、そのために遺言書が必要なら書けばよいのです。現実には、遺言書以外にもあなたの希望をかなえる方法はあるかもしれません。遺言書も所詮はいろいろな方法のひとつにすぎないという意識はお持ちになっていてください。

推定相続人の中に、「この人には財産をあげたくない」と思う人がいることもあります。

 

その場合、まず考えられる方法として、他の推定相続人にのみ財産を遺す遺言書を書くことが考えられます。しかし、遺留分を持つ相続人が遺留分減殺請求を行えば、一定の財産はあげざるをえません。(なお、兄弟姉妹には遺留分がありませんので、遺言書だけである相続人だけに財産を遺すことができます。)

 

そこで、民法は次のような手続きを経れば、遺言によってある相続人を「廃除」して、相続させないことを認めています。

1. 遺言で遺言執行者を指定しておくこと

2. 被相続人に対する虐待、重大な侮辱その他著しい非行について家庭裁判所に判断してもらうこと

 

「廃除」の手続きは、遺言だけでなく、生前に行うこともできますが、いずれの場合も相続人の遺留分も剥奪する大きな効果があるため、家庭裁判所は「廃除」を認めることには慎重です。したがって、廃除の理由や「虐待、侮辱、非行」などの証拠はしっかりと準備をしなければなりません。弁護士等の専門家に相談しながら進めてください。

 

以上は、法律的な手続きのお話でしたが、その他にも方法があります。

単純なことですが、遺言書で相続人に宛てたメッセージを書く方法です。「なぜこの遺言書を遺したのか」「なぜその相続人には財産を遺さなかったのか」「みんなにはこれからどんな人生を歩んでほしいのか」など、あなたの想いを書いてください。

法的な拘束力もありませんし、遺留分を奪う力もありません。しかし、メッセージの内容次第では、法的な手続きよりも大きな効果があります。法律論に振り回されるのではなく、ひとりの人間としてその相続人と向き合えば、結果として大きな説得力を持つメッセージとなります。

 

法律上、遺言によって子どもを認知することができます。

しかし、遺言で婚外子を認知した場合、家族は突然のことに事実を受け入れることができず、婚外子との間で争いとなる可能性が非常に高くなります。

したがって、遺言によって初めて婚外子について家族に打ち明けるという方法は、結果としてみんなを傷つけることになるので、あまりおすすめできません。

 

ただ、いつ話そうかと考えているうちに死期が来てしまうことも心配です。そこで、遺言で「認知」をする場合には・・・

1.必ず家族に対するメッセージを書くこと

2.ご自分のDNAや塩基配列報告書を保管すること

3.遺言執行者を指定すること

・・・が大切です。とくに認知の場合、家族の感情にいかに配慮できるかが大きな課題となりますので家族へのメッセージ」が最も重要です。遺言書の書き方や、DNAの保管方法は調べればわかりますが、あなたの家族に宛てたメッセージだけはいくら調べてもどこにも書いてありません。相当の覚悟で、あなた自身が真剣に家族と向き合っていただくしかありません。

遺言執行者とは

遺言書の内容を実現するために必要な一切の行為をする権利と義務を持つ人を「遺言執行者」といいます。

遺言の執行は、相続人自身が行うことができますが、相続人が複数いる場合はひとつひとつの財産の処分について、すべての相続人が関与しなければならず、行方不明の相続人がいた場合は、家庭裁判所の手続で財産管理人も選任してもらわなければなりません。

そこで、遺言執行者を指定しておけば、いちいち相続人全員の署名押印などがなくても、不動産の登記や、預貯金の解約などがスムーズに進みます。

 

このように遺言執行者には大きな権限とともに、それと同じだけの責任が課せられます。相続人が遺言執行者になる場合は、そのことも認識しておく必要があります。

それまで仲のよかった家族が相続をめぐって険悪になってしまうことは数多くあります。ある時点で「遺言書なんか必要ない」と思っても、その後相続人の事情が変わり、結果として争いになってしまうのです。

 

たとえば・・・

・子どもたちを集めて、相続の話をしようとしたが「縁起でもない」「僕たちは仲がいいから

 心配ない」と言われて、遺言書も書かなかったが、その後仕事がうまくいかなくな

 ってお金が必要な子どもが出てしまい、権利を主張するようになった。

・子どもたちの様子から、仲よく話し合いができると思っていたが、その後それぞれが

 家庭を持ち、その家庭の事情から権利を主張し始めた。

・・・などなど。

 

「遺言書はいらない」と思った時点と、あなたがなくなる時点が遠くなければそれほど問題はないかもしれません。しかし、時間の経過とともに相続人の事情は変わります。自分の死後も家族仲よく暮らしてほしいなら、せめてその気持ちだけでも書き残してほしいと思います。

「遺言書を作るのはお金持ちだけ」というイメージをお持ちの方は多いと思います。

しかし、あなたが亡くなった後、相続手続が必要になることは財産の大小に関係ありません。遺言書があれば、手続にかかる時間を短縮することができますし、相続人全員の同意がなくても預貯金の払い戻しが可能なので、葬儀費用や入院費用の精算もスムーズになります。

 

相続のトラブルの発端として多いのが、こうした死亡前後にかかる費用の立て替えによるものです。たとえ相続人の誰かが善意で立て替えても、あなたの意思表示がないために、他の相続人に疑心暗鬼を生み、トラブルにつながります。

また、財産が少なくても応分の相続を受けることで、あなたの愛情を確認して安心したい相続人もいらっしゃるということも知っておいてほしいと思います。

遺言書というと、どうしても財産のことばかり考えてしまいます。確かに、ほとんどの場合自分が亡くなった後の財産をどうしようかと思ったことがきっかけとなりますし、法律上の拘束力もあるので当然です。

これに対して、「葬儀やお墓のこと」や「家族への言葉」は付言事項といわれ、法的な拘束力がありません。そのため、あまり重要視されていないのが現状です。

 

しかし「家族への想い」を書いておくことは、遺言があなたの意思どおりに実行されるかどうかに大きな影響を与えます。

例えば、遺言書の内容が1人の相続人にとって有利であったり、逆に不利であった場合に、そのような遺言書を書いたあなたの気持ちがわからなければ、相続人の誰かが不満を持つことになります。その結果、遺留分の減殺請求をするなど、相続人同士が疑心暗鬼になったり、争いが起きたりすることになります。

あなたが、ご自分の言葉で家族に対し、感謝の気持ちやこの遺言書の意味を残しておけば、法的な拘束力などなくても、大きな説得力を持ちます。もはや、この世にいないあなたの言葉は、あなたが考えている以上の影響があるのです。

たとえ遺言書の内容が、誰かの遺留分を侵害しているようなものであっても、その真意が理解してもらえれば、トラブルにもならず、あなたの死後も家族が仲よく暮らしていける可能性はぐんと高まります

公正証書遺言では、あなたの自筆ではありませんが、それでもあなたの言葉があるとないとでは、その力に雲泥の差が出ますので、ぜひ書き残してほしいと思います。