2011年8月アーカイブ

会社の株式など事業用財産を特定の親族に継がせるために遺言書を作成しても、その親族以外の相続人から遺留分減殺請求をされてしまうと、親族間のトラブルになり、円滑な事業承継もできません。

そこで、平成20年から「中小企業経営承継円滑化法」が施行され、翌年からは民法の特例に関する規定も施行されました。これによって、一定の要件を満たす後継者が遺留分権利者全員と書面で合意をして、経済産業大臣の確認と家庭裁判所の許可を得れば後継者が旧代表者からの贈与などによって取得した株式などは遺留分の対象としないことや、遺留分の対象とする価額を合意のときの価額とすることができるようになりました

 

ここでいう家庭裁判所の許可は後継者が単独で求めることができるので、通常の遺留分放棄の手続きよりも簡単です。また、遺留分の対象を合意時の価額とすれば、株式の贈与を受けた後、その努力によって株式の価値が上昇しても遺留分の増大にはつながりません。これらの制度をうまく利用すれば、後継者は安心して経営に専念することができます。

 

同時に、後継者ではない相続人が取得した財産についても遺留分の対象としないとする合意もできますので、後継者とそうではない相続人の衡平も図っています。

遺言と事業承継

会社のオーナー経営者や個人事業主が事業承継対策をしないままなくなると、その人の名義の株式・事業用財産は遺産分割の対象となるため、事業に利用できなくなったり後継者争いによって、事業に影響を及ぼします。

しかし、事業承継対策は重要だとわかっていてもなかなか前に進まないものです。そこで、基本的な考え方だけお知らせします。

 

一般に事業承継といえば、「親族内承継」「従業員等への承継」「M&A」の3つの方法があります。このうち「親族内承継」「従業員等への承継」では遺言を活用して後継者に株式や事業用財産を相続させたり、遺贈することが可能となります。

ただし、以下のことに配慮しなければなりません。

 

「遺留分への配慮」

せっかく後継者に事業の継続に必要な財産を集中させても、他の相続人の遺留分を侵害しては、遺留分減殺請求によって当初の目的が果たせなくなります。遺留分の侵害に注意するとともに、付言事項なども有効に使って他の相続人に生じうる不満に配慮しなければなりません。

 

「相続税の対策」

後継者に事業に必要な財産を集中して承継するため、相続税が高額になる可能性があります。そのとき、承継した財産の中に現金がなければ、納付ができません。ですから、遺言者としては預貯金や換金が容易な財産も同時に承継させるようにしたり、生命保険をうまく利用して納税資金を確保しなければなりません。なお、生命保険は使い方によっては上記の「遺留分への配慮」としても有効です。

遺言によって財産をあげることにしていた相手が、あなたより先に亡くなってしまった場合どうなるでしょうか?

 

まず、その相手があなたの相続人でなかったときは、その人に対する遺贈に関する部分の遺言は無効となります。結果として、それに関する財産は法定相続分によって相続人が相続することになります。

また、その相手があなたの相続人であった場合、その人の子どもや孫が代わって相続(代襲相続)するという判例もありますが、取り扱いが確立されているわけではありません。

 

したがって、いずれにしても財産をあげたい相手があなたより先に亡くなると、あなたの当初の目的とはまったく違う形で相続がされてしまいます

もちろん、新しい遺言を作成すればよいのですが、手間も費用もかかりますし、もしその時点であなたが認知症などになっていたら遺言書は残せません。

 

そこで、最初の遺言書を作成する段階から、予備的な遺言をおすすめする場合があります。これによって、万が一財産をあげたい相手があなたより先に亡くなった場合は誰にあげるかを決めておくことができます

民法では「私権の享有は、出生に始まる」とされ、お母さんのおなかにいる胎児は権利の主体とならないのが原則です。

しかし、例外的に「不法行為の損害賠償請求権」「相続」「遺贈」「認知」においては胎児にも権利能力があるとされます。

 

したがって、相続開始時において懐胎していた胎児は、相続と遺言についてはすでに生まれたものとみなされます

遺言で財産を残すには、財産を残す相手を特定しなければなりません。しかし、実際に生まれていないので胎児には法律上の名前も生年月日も特定できません。そこで、遺言書にはお母さんの氏名、本籍、生年月日などを記載し、そのお母さんが懐胎している子どもとして特定することになります。

自分の死後、子どもたちがモメないようになるべく平等に分けたいという気持ちで遺言を検討される方も多いと思います。しかし、具体的に検討を始めてみると、かなり難しいことです。

まず、法律上は遺言がないまま相続が開始されれば、あなたが特定の子どもに対して行なった生前贈与なども考慮されて、遺産分割協議が行われます。これを「特別受益の持ち戻し」といいます。しかし、現実には相続人の話し合いで生前贈与などが話題になると、「お前はこれだけ援助してもらったじゃないか」「そっちだっていろいろ面倒見てもらったでしょ。そもそも、私は望んで援助してもらったわけじゃない。」などと、感情的になることも多く、泥仕合から裁判になってしまうこともあります。

もちろん、裁判になれば財産の分け方は決まりますが、子どもたちの仲は元には戻りません。

 

したがって、あなたが遺言をする場合にも生前贈与などを考慮して配分を決めればよいのですが、問題は子どもたちがあなたからの援助をどの程度認識しているかということです。とくに大学の学費や結婚式の費用など、他の子どもたちからすればうらやむようなことでも、援助を受けた本人にはそれほどの恩恵を感じていないこともあるのです。

 

そこで、こうした遺言をする場合は「自分が死んでもみんなが仲よくしてほしいからこの遺言書を書いたこと」「どうしてこのような配分になったかということ」は必ず付言事項に書いておいてください

もし、仮にこうした財産の配分の理由が何もわからない遺言が見つかれば、子どもたちは突然のことに驚き、かつあなたの真意がつかめないので、とくに配分の少なかった子どもには大きな不満が残ることになります。

障がいをもつ子どもの親にとって「親亡き後」は大きな気がかりです。この場合、成年後見制度や最近始まった生命保険信託などとともに「負担付遺贈」も選択肢のひとつとなります。

 

「負担付遺贈」は、遺言によって財産をもらう人に、法律上の義務を負わせことをいいます。この方法によって、信頼できる人に財産をあげるかわりに、障がいをもつ子どもの生活費を負担してもらうこともできます。財産はあるが、そのまま子どもに相続させてもうまく使うことができない不安がある方には有力な検討材料となります。

ただし、財産をもらった人(受遺者といいます)がきちんと子どもの面倒を見てくれなければ困りますので、相続人は受遺者に対して負担した義務を果たすよう催告ができます。それでも受遺者が義務を果たしてくれなければ、「負担付遺贈」に関する遺言の取消しを家庭裁判所に請求できます。この点、実務上は遺言作成時に遺言執行者を指定しておくことによって、受遺者に義務を履行させることが多いと思われます。

また、受遺者は「遺贈された財産の価額を超えない限度」で義務を負います。受遺者には、「負担付遺贈」を放棄することができますので、このようなことがないように、あげる財産と負担のバランスには注意が必要です。さらに、たとえ負担が付いていても遺贈があれば、当然に一定の相続人には遺留分が認められます。遺留分が認められ、受遺者が得た財産の一部が遺留分権利者に渡れば、遺言で定めた負担も減額されますので、あなたの思ったとおりの体制が作れなくなるおそれもあります。ぜひそんな点も意識しながら、検討してみて下さい。

相続をきっかけとして家族の仲が悪くなるということは、あなたも耳にされると思います。亡くなった方の気持ちを考えれば、この世で最も悲しく虚しいケンカです。そもそもケンカしている人もあと100年生きるわけでもありません。お互い短い人生、せめて家族とは仲よく暮らしてもらいたいと思いますが・・・

 

こうした争いを避けるために遺言は準備したほうがよいのですが、誰かの遺留分を侵害しているような内容であると、またモメごとになります。

しかし、現実には遺留分を侵害せざるを得ないこともありえます。ご主人が奥様にすべて相続させる遺言は常識的なものですが、法律上は子供たちにも遺留分があるのです。それでも、あえてご主人が奥様にすべてを相続させたいと思ったら、子供たちに対する配慮が必要です。通常の家族関係であれば、遺言の作成段階から「遺言を考えていること」「どういう内容にしたいか」「どうしてこの内容の遺言になったか」を話しておくのが理想です。

もちろん法律上は遺言について他人に知らせる義務はありません。しかし、隠さなければならない義務もないのです。あなたの死後、遺言の存在を初めて知った相続人はびっくりします。まして、自分に相続されない内容であればなおさらです。「遺言の存在を知らなかった」ということだけで感情的になる方もいます。

ケースによって違いますが、なるべく遺言の存在と内容、そしてこれに対する想いはなるべくお話していただきたいと思います。

あなたが遺言書を残さずに亡くなると、その財産は相続人の話し合いまたは民法の規定に従って相続されます。したがって、まずは話し合いをして遺産分割協議書を作らなければなりません。もし、この話し合いがまとまらなければ、裁判手続きによって確定調書や確定判決が必要となります。

仮にあなたが、あえて法律に従った分け方がよいと考えていたとしても、相続人には気の重い話し合いが待っています。相続割合がわかっていても、具体的にどの財産を誰が相続するかは必ず話し合わなければなりません。あなたの意思が示されていない以上、どのように分けるかは相続人の自由となるため、どうしても駆け引きが生じ、精神的な負担となります。

さらに、この過程で感情的なもつれまで生じれば、以後まったく疎遠になることも多く、裁判となればさらに費用と時間を失うことになります。もちろん、結論がでるまでは財産を処分したりすることもできません

 

このようなケースでも遺言書があれば、相続人に負担をかけずに財産をすぐに活かしてもらうことができます。もちろん、その内容は大切ですが、基本的には遺言書だけで不動産や預貯金などの名義変更がスムーズに進みます

 

結局のところ、遺言書が要らないケースとは「遺言書がなくても、自分の相続人は必ず話し合いを円満にまとめ、時間も費用もかけずに手続きを協力して進めることができるという絶対の確信がある場合」だけなのです

遺言による信託 5

信託の受託者と後見人

あなたが亡くなった後、大切な人の生活を守るために遺言で信託を設定しておいても、受託者は信託された財産を遺言どおりに管理したり処分する責任を負うだけなので、受益者に精神的に寄り添い、生活場面の様々な事態に臨機応変に対応して法律行為を行うことまではできません。

 

残された大切な家族の日常を法律的にも守るためには、信託だけでなく後見制度の活用も検討する必要があります。そもそも、望ましい支援の形はひとりひとり違いますので、なるべくいろいろな方がいろいろな方法で支援していただくことがよい結果をもたらします。信託も後見制度もそうした支援のための道具のひとつにすぎません

 

なお、信託を設定した場合、受益者あるいは受託者に課税されることがあります。せっかく信託で大切な人に財産を渡そうとしたのに、予期しない課税で想いが実現できないことになりかねません。障がい者のための信託などにおいても、一定の要件を満たさなければ税務上の優遇を受けられませんので、必ず専門家と相談しながら検討してください。

遺言による信託 4

誰に信託すればよいのか?

遺言による信託の場合、受託者は遺言の内容に従い、財産の管理・処分を行います。しかし、これはあなたが亡くなった後、長期にわたって行われ、かつ後見制度のように裁判所の監督下におかれるものでもありませんので、受託者がその権利を乱用するリスクが否定できません。

そこで、通常は信託銀行・信託会社を利用することになります。信託銀行・信託会社は信託を営業として行うための免許を受けていますので、安心して長期的・継続的な財産管理を任せることができます。

ただし、信託できる財産を限定していたり、一定額以上でなければ信託を受け付けない信託銀行などもあり、当然に手数料もかかりますので、財産が少額の場合はメリットがない場合もあります

このため、営業として行わないのであれば、すなわち信託の報酬を支払わないのであれば、信託銀行以外の法人や個人にお願いすることも検討しなければなりません。その場合には、上記のようなリスクがあることから、後見制度や負担付遺贈など目的が同じ方法とあわせて慎重に判断する必要があります。