2011年10月アーカイブ

 私が、念のための措置としてCさんにお願いしたのは、Cさんの住民票や戸籍謄本について第三者が請求できないようにすることでした。

 

 くわしくお話しませんが、戸籍謄本や住民票は親族でなくても、また委任状がなくても請求することは可能です。一方で、ご本人が事前に手続きをすれば、ご本人以外は戸籍謄本や住民票が請求できないようにすることもできます。ただし、この手続きの条件は市区町村ごとに違うので必ず手続きができる保証はありません。

 相続の登記には、相続人全員の印鑑証明書、住民票、戸籍謄本が必要です。逆に、これらの書類が揃いさえすれば本人の知らないところで登記ができてしまいます。もちろん、後で知れれば刑事事件にもなりますが、その不正な登記を元に戻すだけでも相当の手間と時間がかかってしまいます。

 

 不安と焦りを感じている人は、刑事事件になりうるリスクも目に入らなくなることがあります。そこでCさんには関係する市役所へ出かけていただき、自ら手続きをしてご本人以外は住民票などが入手できないようにしていただきました。住民票をおいているA市では、残念ながら手続きの条件に合致しませんでしたが、本籍を置くB市では手続きができましたので、これで以後、勝手に登記をされる心配はなくなりました。

 

 しかし、この手続きをCさんが行う前に、万が一お兄さんがその戸籍謄本を入手していたとしたら、勝手な登記をされる心配は依然として残りますので、遺言に基づく正当な登記を急ぐ必要がありました。そこで司法書士に遺言を根拠とした登記を急ぐよう依頼し、無事にCさんの名義とすることができました。

 

 なお、もしお母さんが不動産をCさんに相続させるという遺言書がなければ、Cさんも単独で不動産の登記をすることはできません。遺言書があるからこそ、Cさんはお兄さんの実印も必要ないまま登記が可能となりました。

 

 これで相続税の申告、不動産の登記が終わり、一応の手続きは完了しました。ただ、登記も済ませたことはいずれお兄さんの知るところとなりますので、何らかの動きをされることが予想されました。

 Cさんのお兄さんは、お母さんとその前夫との間に生まれた子です。お母さんは前夫と離婚した後、別の男性と結婚し、Cさんを授かりました。お兄さんとも養子縁組をして、親子関係がありました。

 

 そのお父さんは、お母さんが亡くなる1年前に亡くなっていましたが、お兄さんはそのお父さんの相続手続きに必要だという名目で、Cさんの印鑑証明書や戸籍謄本などを送るよう要求してきました。

 Cさんからその連絡を受けて、自宅にお伺いするとお兄さんから送られてきた書類の中にはお母さんの不動産の相続登記にも転用できるものもありました。そこにCさんの実印を押して返送するようになっていたのでした。

 

 お兄さんがお母さんの相続登記も勝手に進めようとしていたとは断定できません。しかし、登記の実務上はたとえ遺言書があっても相続人全員の実印があれば、遺言書と異なる登記をすることは可能です。もちろん、その後遺言書の存在によってその登記は否定することはできますが、その前に売却されればさらに話はややこしくなって、遺言書の内容どおりに登記しなおすための手間と費用はさらに必要となります。

 

 そこで私としては、お兄さんを疑うようで申し訳なかったのですが、やむなく念のための措置をCさんにお願いしました

 お母さんの遺言書には、すべての財産をCさんに相続させることが書いてありました。しかも、もしその時点でCさんが亡くなっていたらCさんの夫に遺贈し、この遺言書についての遺言執行者もCさんまたはCさんの夫とすることも書かれていました。

 

 さらに、もしCさんのお兄さんが遺留分を主張する場合には、どの財産を渡すべきかということまで書いてあります

 お母さんの名義の不動産のひとつに、借地権がありました。その土地の上には建物が建っていましたが、借地権も建物も代々親族が相続してきたものでした。都内の物件なので財産価値は高いのですが、親族たちの共有名義となっているため、たとえお兄さんが取得しても売却して換金するためには、さらに費用と手間がかかります。

 

 お母さんは徹底してお兄さんに相続させないことを宣言した遺言書でした。この遺言書はCさんとお兄さんが一緒に確認しました。母親が自分と対立していたことは認識していたと思いますが、ここまではっきりとした意思表示を受けたお兄さんのショックは相当なものだったと推測できます。

 

 お母さんの葬儀の時点では、多くの親族の手前「なるようにしかならない」と平静さを装っていたものの、49日の法要では裁判をやってでも勝ち取るような言動が出てきたそうです。

 

 私のもとにご相談にこられた時点では、Cさんには迷いがありました。お母さんから生前さんざんお兄さんの悪口を聞かされ、Cさん自身もお兄さんに対してよい印象はありません。しかし、実際にお母さんが亡くなり遺された兄弟が本当に口も聞かなくってもよいのかという思いがあります。

 しかし、お兄さんはCさんの呼びかけにも応じることなく、会って話し合おうとはしませんでした。それどころか、別の相続にかこつけて不審な要求までしてくるようになりました。 

 Cさん(35才・女性)は、都内に住む主婦です。家族は、夫と生まれたばかりの長女。最近、一戸建てを買って3人で楽しく生活しています。

 昨年、Cさんのお母さんが亡くなり、相続が発生しました。Cさんの実家は東海地方の資産家につながるお家でしたので、不動産や株式などを相続するに際し、相続税の申告もしなければなりませんでした。
 私は、Cさんのご了解をいただき、相続に強い税理士をご紹介させていただきました。何回かのやりとりを経て無事に申告は終わりました。

 しかし、Cさんの場合は申告や納税は終わっても、もうひとつ気掛かりがありました。Cさんには父親の違うお兄さんがいました。お兄さんは、もともとあまり家に寄り付かず、一族の資産を守るために親族の話合いで決めたことも守ってくれませんでした。そのため、お母さんとはすっかり仲が悪くなり、そのまま理解し合えないままお母さんは他界されました。

 お母さんが亡くなった後、Cさんとお兄さんは法定相続人として一緒に銀行へ行きました。お母さんはもともと「宵越しの金は持たねえ」タイプでしたので預金はほとんどありませんでしたが、貸金庫がありました。


 相続が発生した場合、速やかに貸金庫を確認することはとても大切なことです。遺言書など重要な物が保管されているケースが多いためです。貸金庫の確認を後回しにしたまま相続人だけで遺産分割の話合いをしてしまい、後になって遺言書や多額の現金が出てきてトラブルになるケースは少なくありません。
 遺言書がない時点で貸金庫を開けるためには相続人全員の同意が必要なので、相続人同士の仲がすでに悪いとどうしても貸金庫の確認が後回しになりがちです。その場合も、遺産分割の話合いとは切り離してお互いのために確認だけは協力して行なって下さい


 さて、Cさんの場合も、お母さんの貸金庫を開けたところやっぱり遺言書が出てきました。その内容から、お母さんがいかにCさんのお兄さんに対して怒っていたかがわかりました。
 Bさんの弟さんの法的権利は明らかです。登記されたお母さんの不動産を相続する権利は弟さんにもあります。しかし、一方で民法では、遺言書のない相続については相続人同士の話し合いによって遺産を分割することを大前提としています。つまり、相続人はその権利を主張することはできますが、必ず主張しなければならないわけではありません
 相続に関する本などには、「法定相続割合」とか「遺留分」とかややこしいことが書いてありますが、そうした情報にのめり込みすぎると、何のために権利を主張しているのかを見失う人も多くいらっしゃいます。

 もはや、兄弟とは縁を切る覚悟があれば、淡々と法律に基づいてご自分の権利を主張し、もらうものだけもらって二度と会わないという選択もあるでしょう。しかし、法律には兄弟がどうしたら仲良くできるかという問題の答えは書いてありません。

 結局お二人のお兄さんに間に入っていただくことになりました。もちろん、お兄さんも相続人ですので権利を主張することもできますが、お母さんが「兄弟が仲良くしてほしい」という想いを持っていたことを一番大切にしておられました。
 お兄さんは、Bさんの弟さんに「俺も何も受け取らないから、おまえもわがままを言うな。おまえが苦しんでいることは俺もBもよくわかっている。」と諭しました。
 Bさんの弟さんもようやく理解して下さり、不動産は無事にBさんが相続することになりました。また、相続とは別の話として、商売で苦労している弟さんへの支援も話し合われました。

 この合意を受けて、私は遺産分割協議書を作成し、ご兄弟全員に署名と実印をいただきました。


 「相続」というと、どうしても遺産の分割ばかりに気持ちが奪われます。しかし、家族の一員が亡くなりこの先どうすればみんなが幸せになれるかということこそ考えなければなりません。お金や財産はそのための手段の一つに過ぎないと改めて感じました。
 

 Bさん(65才・男性)は3人兄弟の2番目です。厳しいながらも奥さんと協力しながら何とか自営の仕事をしています。Bさんのお父さんは数年前に他界し、お母さんを引き取って3人で暮らしていました。

 

 昨年、Bさんはお母さんの健康のために小さな畑を購入しましたが、節税のため(?)名義の半分はお母さんとしました。

 ところが、その後お母さんの体調が急速に悪くなり、ほとんど病院暮らしとなってしまいました。ちょうどその頃、個人で建築業を営む弟が資材置き場を探してました。せっかくの土地を遊ばせていてもしょうがないので、Bさんと弟さんの話合いでしばらくは弟に使わせることにしました。もちろん地代などは取りませんでした。

 

 しかし、Bさんやその奥さんの看病の甲斐なく、お母さんは亡くなります。遺言書はありませんでしたが、Bさんはこれまでの経緯から当然にお母さん名義の畑は自分の名義に移さなければと考えました。ところが、この段階になって、弟さんが「自分にも相続する権利がある」というようになりました

 

 もともと土地の購入費は自分が出したという思いがあるBさんは奥さんの知り合いだった私に相談をしました。確かに、Bさんも含めてお母さんの遺産の相続を受ける権利は、Bさんのご兄弟が平等に持っています。しかし、そもそも土地の購入費を出したのはBさんでしたのでいきなり「法律上は平等だ」といわれても納得はできません。唯一の遺産だった不動産をどうやって分割すべきかが問題となりました。

 田舎で弟さんと話合いをしたAさんから連絡をいただきました。無事、弟さんがすべてを相続し、不動産の登記もできたとのことでした。

 

 Aさんによれば、弟さんは「お母さんの遺言で全部お姉ちゃんが継ぐべきなのに心苦しい」と自分への相続を渋ったそうです。Aさんは、「法律上の相続の話と我が家の事情は違う」「あの当時はあなたもお母さんに心配をかけていたから、単に管理人として私を選んだだけで、法的な相続という意図まではなかったはず。」と説得しました。

 弟さんは、すでに嫡男として地域の付き合いを続けてきており、その煩わしさなども経験しています。この際、多少のお金でももらって嫡男の立場から逃げられればというお気持ちもあったようです。

 確かに、昔ながらの地域の付き合いは煩わしさもあると思います。しかしながら、有無を言わさず嫡男にその役目を押し付けてきたシステムにも存在理由があり、今の時代が失ってしまった良さもあります

 結局、Aさんから「お母さんの遺言書の本当の意味を考えろ」と言われた弟さんは覚悟を決めて相続することになりました。Aさんの実家の歴史が新しい世代に引き継がれます。ある意味で弟さんには重荷を背負わせていますが、東京のAさんが相続しても、使わない不動産は売却するしかなかったことを考えれば、もっともよい選択だったと思っています。

 遺言書にはAさんにすべて相続させるという記載がありましたが、Aさんは相続を受ける気持ちがありません。また、客観的に見てもAさんが相続を受けることがAさんやそのご兄弟にとって幸せとは言い難い状況です。しかし、遺言書どおりに相続を行わないと、今度はAさんの相続人から不満が出る可能性があります。

 この問題を解決するにはいくつかの方法がありますが、今回は最も簡単な方法を使うことになりました。Aさんが相続を受けないことを宣言した文書を作成し、その文書を公証役場へ持っていって公証人に認証してもらう方法です。これは「私書認証」と呼ばれる方法で、公証人が「この文書は間違いなくAさんが書いたものである」ということを正式に認めてもらう手続です。
 この手続を行えば、Aさんが相続を受けないと言ったことについては争いがなくなり、Aさんのご兄弟は将来AさんやAさんの相続人から文句を言われることはありません。

 ちなみに、この文書を「公正証書」にする方法もあります。「公正証書」であれば公証人がAさんの話を聞いて文書を作りますし、原本は公証役場に保管されますので紛失の心配がありません。その代わり「私書認証」に比べると費用が高くなります。

 Aさんは「私書認証」を選択し、私と一緒に近くの公証役場に出向きました。事前に作成した文書を公証人に確認してもらい、認証した旨の文書をつけてもらって完成です。Aさんの場合、時間は15分程度、費用は5,500円でした。

 Aさんは、お子さんには事前にこの手続をとる方針を伝えて了解をもらっていました。あとは、弟さんと改めて遺産分割の話合いをするだけです。Aさんは2週間後再び田舎に行くことになりました。