2011年11月アーカイブ

 今年の3月、Dさんからご相談をいただきました。高齢のため施設に入っているDさんの「おばちゃん」についての相談でした。

 「おばちゃん」は、生涯独身で子どももいません。日頃から、自分に万が一のことがあったときのために、Dさんに「全部任せるから頼むよ」と繰り返し話していたそうです。Dさんも、自分が生まれたときから一緒に住んでいた「おばちゃん」は親も同然でしたので、献身的に施設へも通い身の回りのことも手伝ってきました。

 

 ところが、「おばちゃん」は2月頃から急激に体調が悪くなり、施設内の介護棟で過ごすようになりました。Dさんは、「おばちゃん」に万が一のことがあれば金融機関からお金を下ろせなくなり、お葬式の費用も引き出せなくなることは知っていらっしゃったので、「おばちゃん」の了解も得て株式を換金することにしました。

 証券会社の人が施設に来てくれて、換金の手続きをしてくれましたが、その時点で「おばちゃん」は筆を持つこともかなり難しくなっていたそうです。証券会社の方からは「今回は換金できるようにしますが、今後は成年後見制度を使ってください」と言われたそうです。

 

 「成年後見制度・・・?」Dさんにとってはじめて聞く言葉でした。Dさんは施設のスタッフに相談したところ、私を紹介されご連絡をいただいきました。

どうすればよかったのか?今後どうすればよいのか?

 Cさんのケースは、決して特殊な事例ではありません。遺留分をめぐって「遺言」と「遺留分減殺請求」の応酬になってしまうことは、どのご家庭にも可能性があります。
 Cさんの事例から見ると、もともとの根っこは遺言を書く人と相続人の関係が極めて悪くなったことが原因です。当たり前の話ですが家族がいがみ合えば結局は家族全員が傷つきます。自分ひとりの主張や正当性を確保するために遺言を書く人がいますが、結果としては誰も喜ぶ人はいないのです。お金や財産のことだけで片がつかないのが家族であり、お金がなくても片がつくのも家族だけです。
 もし、Cさんのお母さんが遺言を書くにしても、「付言事項」でCさんのお兄さんに対して自分の想いやなぜこのような遺言を書くにいたったのかをきちんと遺しておいてくれたら、事態はここまでこじれなかったのではないかと感じます。物心ともにお兄さんを全否定するかのような今回の遺言では、お兄さんを説得する材料もありませんでした。

 今後は、お兄さんのアプローチを待って話合いのタイミングを図ることになります。残念ながら長期間にわたることは覚悟しなければなりません。その間、Cさんもお兄さんもお互いに不信とモヤモヤを抱えながら生きていくことになります。複雑な環境とはいえ、たった二人きりの兄弟がこうした不健全な関係になってしまうことまで、お母さんは予想していたでしょうか?

 お母さんは、生前Cさんにさんざんお兄さんのグチを話してきました。遺言の動機が「Cさんに全部あげたい」というものではなく、「息子には絶対あげたくない」という意地が大半を占めていただろうと推察できます。自分が死んだ後、この遺言が原因で兄弟がどんな影響を受けるかまでを真剣に考えていたのか疑問が残ります。

 もちろん、遺言はどんな理由や内容であれ、書く人の自由です。「遺言ぐらい自由にさせてよ!」という気持ちもわかります。しかし、もし遺された人たちの幸せを願うのであれば、やっぱり自分だけの身勝手は自重しなければなりません。残された人たちがトラブルになれば、結局は遺言をした人の生きざまを問われてしまうのです。

 私はCさんに「お兄さんから遺留分減殺請求に関する文書がくる可能性が高い」というお話は以前からしていました。それでも、はじめて内容証明郵便を受け取るとやっぱり心中は穏やかではありません。

 「どうしたらいいんでしょう・・・」法的な争いに対する不安とお兄さんに対する複雑な気持ちで揺れていました。

 

 Cさんのご主人もまじえて、論点を整理してみました。お兄さんの遺留分減殺請求によって、「法理論上は」すでに行った不動産の登記は遺留分相当部分がお兄さんの権利に帰属します。

 しかし、実務上はお兄さんはこれだけで不動産の持分をもらえるわけではありません。やっぱり話合いか裁判でどの財産のどの部分をどのような形で取得するかを決めなければならないのです。

 

 お兄さんとしては、Cさんや親せきの人たちと接触を持たなければなりません。これまで、お兄さんは親せきに対しても不義理を続けてきたので、会わす顔がないことは誰もが知っています。不動産の共有者が集まれば、少なくとも心理的にはお兄さんは完全に不利です。したがって、お兄さんは簡単には具体的な接触はできないと考えられました。

 法的な手続きも、弁護士さんを頼むほどの遺留分とはいえないので、なかなか進まないだろうし、そこまですれば本当に親せきたちと絶縁になることは明らかですので、現実にはそれもできないだろうと予想できました。

 

 一方で、Cさんのほうから話合いを持ちかける方法もありましたが、Cさんもお兄さんに対する気持ちは整理できていませんので、わざわざこちらから収拾を図る努力をするほどの気持ちも生じません。

 

 とりあえずCさんは、お兄さんとの間に入ってくれそうな叔父さんに当たる方に相談することにしました。もし、相談して家族的な話合いができないと判断できれば、少なくてもCさんのサイドからは何もせずお兄さんの動きを見守るという方針になりました。

 相続税の申告は、10ヶ月の期限ぎりぎりになりましたが無事に完了し、Cさんも私たちもひと安心していました。そこへお兄さんからの新たな動きがありました。内容証明郵便による「遺留分減殺請求権行使」の通知がCさんのもとへ届きました。

 

 遺留分を主張できる期間は民法で定められていますが、お兄さんの場合は事実上お母さんが亡くなってから1年以内と考えることができました。厳密にいえば、お母さんの遺言を見た時から1年です。

 

 いずれにしても、お兄さんの法的主張は認められるべきものでした。しかし、お母さんはお兄さんが遺留分を主張してくることを前提とした遺言書を書いていました。

 遺言書にはお兄さんが遺留分を主張する場合には、親族で共有としている不動産を対象とするよう指定し、その持分を売却するには他の共有者の同意が必要となっていました。

 

 そのため、仮にお兄さんが相続で得た不動産を売却するには他の親族の同意も必要でしたので、売却は極めて費用や時間がかかるものとなっていました。お母さんの遺言書をよく見ると、とにかくお兄さんがお金を手にすることがないように計算されて作成されていました。

 

 案の定、お兄さんは遺留分を主張することについてだけは、1年を超えないぎりぎりの段階で内容証明郵便を使ってCさんに伝えてきました。