尊厳死宣言書の課題1

人工呼吸器は外せるか?

 

 現在の日本の法律では、一度着けた人工呼吸器を外すことはできないというのが大原則です。たとえ尊厳死宣言書に「人工呼吸器は外してほしい」と書かれていても、基本的には同じです。しかも、公正証書の場合は「人工呼吸器を外してほしい」と書くことすら難しいのが現状です。

 人工呼吸器を外すことが医学的に適切な選択ではない、つまり人工呼吸器を外すと死んでしまうにも関わらず外してしまうと、刑事事件になります。家族が希望したとしても、原則としてお医者さんの責任は免れません。

 

 これほど大きな問題にもかかわらず、人工呼吸器の着脱にまつわる法制度については意外と知られていません。そのため、現実に家族が意識不明の状態になり、人工呼吸器についての説明を受けると「よくわからないけれど、お医者さんがいうのだからとりあえず・・」という気持ちで安易な延命治療に踏み出してしまうのです。

 

 延命治療がいけないと言っているのではありません。「安易に」踏み出してしまうのが問題なのです。だとすれば、もう少しちゃんとお医者さんに聞けばよいのかもしれません。また、お医者さんが人工呼吸器を着けることによる問題を積極的に教えてくれるようになればよいのかもしれません。

 しかし、お医者さんは患者さんのお身体の現状と今後の治療方針などは説明する義務があるものの、安楽死などについての法制度の説明まで行う義務はありません。現在、国会ではいわゆる「尊厳死法案」の議論も始まっていますが、お医者さんの世界では「死は医療の敗北」という価値感が根強くありますので、今後も安楽死についての説明義務まで課される可能性は低いと思います。

 

 なお、安楽死は殺人罪にあたるというのが大原則であるものの、例外的にその違法性を阻却した判例が日本にもあります。


1.死期が切迫していること

2.耐え難い肉体的苦痛が存在すること

3.苦痛の除去・緩和が目的であること

4.患者が意思表示していること

5.医師が行うこと

6.倫理的妥当な方法で行われること

(昭和37年・名古屋高裁)

 

 その他にも、上記のような判例がありますが、どの判例も厳格な要件をあげており、裁判所も極めて例外的・限定的に扱っていることがわかります。しかも、この判例をもとに安楽死についての宣言書を書いたとしても、それが実現される可能性は極めて低いと思われます。

 なぜなら、お医者さんがその宣言書に基づいて、人工呼吸器を外すなど安楽死の措置を行った場合でも、裁判を受けなければならないことについては変わりがないからです。この場合の宣言書は「裁判にかけられたお医者さんを無罪にする可能性」を高めるだけの効果しかないのです。

 

 「無罪になるとは思うけれど、裁判所に呼び出されるくらいは仕方がない」と思ってくれるお医者さんが果たしてどれだけいるでしょうか?やはり現実には、一度着けた人工呼吸器を外すことはほとんど不可能ともいえます。

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