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 今年の3月、Dさんからご相談をいただきました。高齢のため施設に入っているDさんの「おばちゃん」についての相談でした。

 「おばちゃん」は、生涯独身で子どももいません。日頃から、自分に万が一のことがあったときのために、Dさんに「全部任せるから頼むよ」と繰り返し話していたそうです。Dさんも、自分が生まれたときから一緒に住んでいた「おばちゃん」は親も同然でしたので、献身的に施設へも通い身の回りのことも手伝ってきました。

 

 ところが、「おばちゃん」は2月頃から急激に体調が悪くなり、施設内の介護棟で過ごすようになりました。Dさんは、「おばちゃん」に万が一のことがあれば金融機関からお金を下ろせなくなり、お葬式の費用も引き出せなくなることは知っていらっしゃったので、「おばちゃん」の了解も得て株式を換金することにしました。

 証券会社の人が施設に来てくれて、換金の手続きをしてくれましたが、その時点で「おばちゃん」は筆を持つこともかなり難しくなっていたそうです。証券会社の方からは「今回は換金できるようにしますが、今後は成年後見制度を使ってください」と言われたそうです。

 

 「成年後見制度・・・?」Dさんにとってはじめて聞く言葉でした。Dさんは施設のスタッフに相談したところ、私を紹介されご連絡をいただいきました。

どうすればよかったのか?今後どうすればよいのか?

 Cさんのケースは、決して特殊な事例ではありません。遺留分をめぐって「遺言」と「遺留分減殺請求」の応酬になってしまうことは、どのご家庭にも可能性があります。
 Cさんの事例から見ると、もともとの根っこは遺言を書く人と相続人の関係が極めて悪くなったことが原因です。当たり前の話ですが家族がいがみ合えば結局は家族全員が傷つきます。自分ひとりの主張や正当性を確保するために遺言を書く人がいますが、結果としては誰も喜ぶ人はいないのです。お金や財産のことだけで片がつかないのが家族であり、お金がなくても片がつくのも家族だけです。
 もし、Cさんのお母さんが遺言を書くにしても、「付言事項」でCさんのお兄さんに対して自分の想いやなぜこのような遺言を書くにいたったのかをきちんと遺しておいてくれたら、事態はここまでこじれなかったのではないかと感じます。物心ともにお兄さんを全否定するかのような今回の遺言では、お兄さんを説得する材料もありませんでした。

 今後は、お兄さんのアプローチを待って話合いのタイミングを図ることになります。残念ながら長期間にわたることは覚悟しなければなりません。その間、Cさんもお兄さんもお互いに不信とモヤモヤを抱えながら生きていくことになります。複雑な環境とはいえ、たった二人きりの兄弟がこうした不健全な関係になってしまうことまで、お母さんは予想していたでしょうか?

 お母さんは、生前Cさんにさんざんお兄さんのグチを話してきました。遺言の動機が「Cさんに全部あげたい」というものではなく、「息子には絶対あげたくない」という意地が大半を占めていただろうと推察できます。自分が死んだ後、この遺言が原因で兄弟がどんな影響を受けるかまでを真剣に考えていたのか疑問が残ります。

 もちろん、遺言はどんな理由や内容であれ、書く人の自由です。「遺言ぐらい自由にさせてよ!」という気持ちもわかります。しかし、もし遺された人たちの幸せを願うのであれば、やっぱり自分だけの身勝手は自重しなければなりません。残された人たちがトラブルになれば、結局は遺言をした人の生きざまを問われてしまうのです。

 私はCさんに「お兄さんから遺留分減殺請求に関する文書がくる可能性が高い」というお話は以前からしていました。それでも、はじめて内容証明郵便を受け取るとやっぱり心中は穏やかではありません。

 「どうしたらいいんでしょう・・・」法的な争いに対する不安とお兄さんに対する複雑な気持ちで揺れていました。

 

 Cさんのご主人もまじえて、論点を整理してみました。お兄さんの遺留分減殺請求によって、「法理論上は」すでに行った不動産の登記は遺留分相当部分がお兄さんの権利に帰属します。

 しかし、実務上はお兄さんはこれだけで不動産の持分をもらえるわけではありません。やっぱり話合いか裁判でどの財産のどの部分をどのような形で取得するかを決めなければならないのです。

 

 お兄さんとしては、Cさんや親せきの人たちと接触を持たなければなりません。これまで、お兄さんは親せきに対しても不義理を続けてきたので、会わす顔がないことは誰もが知っています。不動産の共有者が集まれば、少なくとも心理的にはお兄さんは完全に不利です。したがって、お兄さんは簡単には具体的な接触はできないと考えられました。

 法的な手続きも、弁護士さんを頼むほどの遺留分とはいえないので、なかなか進まないだろうし、そこまですれば本当に親せきたちと絶縁になることは明らかですので、現実にはそれもできないだろうと予想できました。

 

 一方で、Cさんのほうから話合いを持ちかける方法もありましたが、Cさんもお兄さんに対する気持ちは整理できていませんので、わざわざこちらから収拾を図る努力をするほどの気持ちも生じません。

 

 とりあえずCさんは、お兄さんとの間に入ってくれそうな叔父さんに当たる方に相談することにしました。もし、相談して家族的な話合いができないと判断できれば、少なくてもCさんのサイドからは何もせずお兄さんの動きを見守るという方針になりました。

 相続税の申告は、10ヶ月の期限ぎりぎりになりましたが無事に完了し、Cさんも私たちもひと安心していました。そこへお兄さんからの新たな動きがありました。内容証明郵便による「遺留分減殺請求権行使」の通知がCさんのもとへ届きました。

 

 遺留分を主張できる期間は民法で定められていますが、お兄さんの場合は事実上お母さんが亡くなってから1年以内と考えることができました。厳密にいえば、お母さんの遺言を見た時から1年です。

 

 いずれにしても、お兄さんの法的主張は認められるべきものでした。しかし、お母さんはお兄さんが遺留分を主張してくることを前提とした遺言書を書いていました。

 遺言書にはお兄さんが遺留分を主張する場合には、親族で共有としている不動産を対象とするよう指定し、その持分を売却するには他の共有者の同意が必要となっていました。

 

 そのため、仮にお兄さんが相続で得た不動産を売却するには他の親族の同意も必要でしたので、売却は極めて費用や時間がかかるものとなっていました。お母さんの遺言書をよく見ると、とにかくお兄さんがお金を手にすることがないように計算されて作成されていました。

 

 案の定、お兄さんは遺留分を主張することについてだけは、1年を超えないぎりぎりの段階で内容証明郵便を使ってCさんに伝えてきました。 

 私が、念のための措置としてCさんにお願いしたのは、Cさんの住民票や戸籍謄本について第三者が請求できないようにすることでした。

 

 くわしくお話しませんが、戸籍謄本や住民票は親族でなくても、また委任状がなくても請求することは可能です。一方で、ご本人が事前に手続きをすれば、ご本人以外は戸籍謄本や住民票が請求できないようにすることもできます。ただし、この手続きの条件は市区町村ごとに違うので必ず手続きができる保証はありません。

 相続の登記には、相続人全員の印鑑証明書、住民票、戸籍謄本が必要です。逆に、これらの書類が揃いさえすれば本人の知らないところで登記ができてしまいます。もちろん、後で知れれば刑事事件にもなりますが、その不正な登記を元に戻すだけでも相当の手間と時間がかかってしまいます。

 

 不安と焦りを感じている人は、刑事事件になりうるリスクも目に入らなくなることがあります。そこでCさんには関係する市役所へ出かけていただき、自ら手続きをしてご本人以外は住民票などが入手できないようにしていただきました。住民票をおいているA市では、残念ながら手続きの条件に合致しませんでしたが、本籍を置くB市では手続きができましたので、これで以後、勝手に登記をされる心配はなくなりました。

 

 しかし、この手続きをCさんが行う前に、万が一お兄さんがその戸籍謄本を入手していたとしたら、勝手な登記をされる心配は依然として残りますので、遺言に基づく正当な登記を急ぐ必要がありました。そこで司法書士に遺言を根拠とした登記を急ぐよう依頼し、無事にCさんの名義とすることができました。

 

 なお、もしお母さんが不動産をCさんに相続させるという遺言書がなければ、Cさんも単独で不動産の登記をすることはできません。遺言書があるからこそ、Cさんはお兄さんの実印も必要ないまま登記が可能となりました。

 

 これで相続税の申告、不動産の登記が終わり、一応の手続きは完了しました。ただ、登記も済ませたことはいずれお兄さんの知るところとなりますので、何らかの動きをされることが予想されました。

 Cさんのお兄さんは、お母さんとその前夫との間に生まれた子です。お母さんは前夫と離婚した後、別の男性と結婚し、Cさんを授かりました。お兄さんとも養子縁組をして、親子関係がありました。

 

 そのお父さんは、お母さんが亡くなる1年前に亡くなっていましたが、お兄さんはそのお父さんの相続手続きに必要だという名目で、Cさんの印鑑証明書や戸籍謄本などを送るよう要求してきました。

 Cさんからその連絡を受けて、自宅にお伺いするとお兄さんから送られてきた書類の中にはお母さんの不動産の相続登記にも転用できるものもありました。そこにCさんの実印を押して返送するようになっていたのでした。

 

 お兄さんがお母さんの相続登記も勝手に進めようとしていたとは断定できません。しかし、登記の実務上はたとえ遺言書があっても相続人全員の実印があれば、遺言書と異なる登記をすることは可能です。もちろん、その後遺言書の存在によってその登記は否定することはできますが、その前に売却されればさらに話はややこしくなって、遺言書の内容どおりに登記しなおすための手間と費用はさらに必要となります。

 

 そこで私としては、お兄さんを疑うようで申し訳なかったのですが、やむなく念のための措置をCさんにお願いしました

 お母さんの遺言書には、すべての財産をCさんに相続させることが書いてありました。しかも、もしその時点でCさんが亡くなっていたらCさんの夫に遺贈し、この遺言書についての遺言執行者もCさんまたはCさんの夫とすることも書かれていました。

 

 さらに、もしCさんのお兄さんが遺留分を主張する場合には、どの財産を渡すべきかということまで書いてあります

 お母さんの名義の不動産のひとつに、借地権がありました。その土地の上には建物が建っていましたが、借地権も建物も代々親族が相続してきたものでした。都内の物件なので財産価値は高いのですが、親族たちの共有名義となっているため、たとえお兄さんが取得しても売却して換金するためには、さらに費用と手間がかかります。

 

 お母さんは徹底してお兄さんに相続させないことを宣言した遺言書でした。この遺言書はCさんとお兄さんが一緒に確認しました。母親が自分と対立していたことは認識していたと思いますが、ここまではっきりとした意思表示を受けたお兄さんのショックは相当なものだったと推測できます。

 

 お母さんの葬儀の時点では、多くの親族の手前「なるようにしかならない」と平静さを装っていたものの、49日の法要では裁判をやってでも勝ち取るような言動が出てきたそうです。

 

 私のもとにご相談にこられた時点では、Cさんには迷いがありました。お母さんから生前さんざんお兄さんの悪口を聞かされ、Cさん自身もお兄さんに対してよい印象はありません。しかし、実際にお母さんが亡くなり遺された兄弟が本当に口も聞かなくってもよいのかという思いがあります。

 しかし、お兄さんはCさんの呼びかけにも応じることなく、会って話し合おうとはしませんでした。それどころか、別の相続にかこつけて不審な要求までしてくるようになりました。 

 Cさん(35才・女性)は、都内に住む主婦です。家族は、夫と生まれたばかりの長女。最近、一戸建てを買って3人で楽しく生活しています。

 昨年、Cさんのお母さんが亡くなり、相続が発生しました。Cさんの実家は東海地方の資産家につながるお家でしたので、不動産や株式などを相続するに際し、相続税の申告もしなければなりませんでした。
 私は、Cさんのご了解をいただき、相続に強い税理士をご紹介させていただきました。何回かのやりとりを経て無事に申告は終わりました。

 しかし、Cさんの場合は申告や納税は終わっても、もうひとつ気掛かりがありました。Cさんには父親の違うお兄さんがいました。お兄さんは、もともとあまり家に寄り付かず、一族の資産を守るために親族の話合いで決めたことも守ってくれませんでした。そのため、お母さんとはすっかり仲が悪くなり、そのまま理解し合えないままお母さんは他界されました。

 お母さんが亡くなった後、Cさんとお兄さんは法定相続人として一緒に銀行へ行きました。お母さんはもともと「宵越しの金は持たねえ」タイプでしたので預金はほとんどありませんでしたが、貸金庫がありました。


 相続が発生した場合、速やかに貸金庫を確認することはとても大切なことです。遺言書など重要な物が保管されているケースが多いためです。貸金庫の確認を後回しにしたまま相続人だけで遺産分割の話合いをしてしまい、後になって遺言書や多額の現金が出てきてトラブルになるケースは少なくありません。
 遺言書がない時点で貸金庫を開けるためには相続人全員の同意が必要なので、相続人同士の仲がすでに悪いとどうしても貸金庫の確認が後回しになりがちです。その場合も、遺産分割の話合いとは切り離してお互いのために確認だけは協力して行なって下さい


 さて、Cさんの場合も、お母さんの貸金庫を開けたところやっぱり遺言書が出てきました。その内容から、お母さんがいかにCさんのお兄さんに対して怒っていたかがわかりました。
 Bさんの弟さんの法的権利は明らかです。登記されたお母さんの不動産を相続する権利は弟さんにもあります。しかし、一方で民法では、遺言書のない相続については相続人同士の話し合いによって遺産を分割することを大前提としています。つまり、相続人はその権利を主張することはできますが、必ず主張しなければならないわけではありません
 相続に関する本などには、「法定相続割合」とか「遺留分」とかややこしいことが書いてありますが、そうした情報にのめり込みすぎると、何のために権利を主張しているのかを見失う人も多くいらっしゃいます。

 もはや、兄弟とは縁を切る覚悟があれば、淡々と法律に基づいてご自分の権利を主張し、もらうものだけもらって二度と会わないという選択もあるでしょう。しかし、法律には兄弟がどうしたら仲良くできるかという問題の答えは書いてありません。

 結局お二人のお兄さんに間に入っていただくことになりました。もちろん、お兄さんも相続人ですので権利を主張することもできますが、お母さんが「兄弟が仲良くしてほしい」という想いを持っていたことを一番大切にしておられました。
 お兄さんは、Bさんの弟さんに「俺も何も受け取らないから、おまえもわがままを言うな。おまえが苦しんでいることは俺もBもよくわかっている。」と諭しました。
 Bさんの弟さんもようやく理解して下さり、不動産は無事にBさんが相続することになりました。また、相続とは別の話として、商売で苦労している弟さんへの支援も話し合われました。

 この合意を受けて、私は遺産分割協議書を作成し、ご兄弟全員に署名と実印をいただきました。


 「相続」というと、どうしても遺産の分割ばかりに気持ちが奪われます。しかし、家族の一員が亡くなりこの先どうすればみんなが幸せになれるかということこそ考えなければなりません。お金や財産はそのための手段の一つに過ぎないと改めて感じました。
 

 Bさん(65才・男性)は3人兄弟の2番目です。厳しいながらも奥さんと協力しながら何とか自営の仕事をしています。Bさんのお父さんは数年前に他界し、お母さんを引き取って3人で暮らしていました。

 

 昨年、Bさんはお母さんの健康のために小さな畑を購入しましたが、節税のため(?)名義の半分はお母さんとしました。

 ところが、その後お母さんの体調が急速に悪くなり、ほとんど病院暮らしとなってしまいました。ちょうどその頃、個人で建築業を営む弟が資材置き場を探してました。せっかくの土地を遊ばせていてもしょうがないので、Bさんと弟さんの話合いでしばらくは弟に使わせることにしました。もちろん地代などは取りませんでした。

 

 しかし、Bさんやその奥さんの看病の甲斐なく、お母さんは亡くなります。遺言書はありませんでしたが、Bさんはこれまでの経緯から当然にお母さん名義の畑は自分の名義に移さなければと考えました。ところが、この段階になって、弟さんが「自分にも相続する権利がある」というようになりました

 

 もともと土地の購入費は自分が出したという思いがあるBさんは奥さんの知り合いだった私に相談をしました。確かに、Bさんも含めてお母さんの遺産の相続を受ける権利は、Bさんのご兄弟が平等に持っています。しかし、そもそも土地の購入費を出したのはBさんでしたのでいきなり「法律上は平等だ」といわれても納得はできません。唯一の遺産だった不動産をどうやって分割すべきかが問題となりました。

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